顔面神経麻痺Bell's palsy
西洋医学的な”顔面神経麻痺とは・・・”
顔面神経麻痺の原因としては、Bell(ベル)麻痺が全体の60~70%を占めています。その他、Hunt(ハント)症候群が10~15%、それ以外の外傷や中耳炎、耳下腺悪性腫瘍などが10~15%と考えられています。
【Bell(ベル)麻痺】
特発性顔面神経麻痺とも呼ばれ、原因は明確ではないが、単純ヘルペスウイルスの再活性化が原因ではないかと言われている。
【Hunt(ハント)症候群】
①耳帯状疱疹、②末梢性顔面神経麻痺、③耳鳴り・難聴・めまい、の3徴候を示す疾患で、神経節に潜伏している帯状疱疹ウィルスが、免疫低下などを契機に再活性化し症状が現れる言われている。
顔面神経麻痺の臨床的な評価方法は次のとおりで、グレードⅠからⅥの6段階で評価をします。その他、柳原法の10項目評価方法もあります。
Ⅰ正常 | 【安静時】正常
【額しわ寄せ時】正常 【閉眼】正常 【口角の運動】正常 【共同運動】- 【拘縮】- 【痙攣】- 【全体的印象】正常 |
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Ⅱ軽度麻痺 | 【安静時】対称性 緊張正常 【額しわ寄せ時】軽度~高度 【閉眼】軽く閉眼可能 軽度非対称 【口角の運動】動くが軽度非対称 【共同運動】- 【拘縮】- 【痙攣】- 【全体的印象】注意してみないと分からない程度 |
Ⅲ中等度麻痺 | 【安静時】対称性 緊張ほぼ正常 【額しわ寄せ時】軽度~高度 【閉眼】力を入れれば閉眼可能 非対称性明瞭 【口角の運動】動くが非対称性明瞭 【共同運動】+ 【拘縮】+ 【痙攣】+ 【全体的印象】明らかな麻痺 左右差は著明ではない |
Ⅳやや高度麻痺 | 【安静時】非対称性 緊張ほぼ正常 【額しわ寄せ時】不能 【閉眼】力を入れても閉眼不可 【口角の運動】動くが非対称著明 【共同運動】++ 【拘縮】++ 【痙攣】++ 【全体的印象】明らかな麻痺 左右差著明 |
Ⅴ高度麻痺 | 【安静時】非対称性 口角下垂 鼻唇溝消失 【額しわ寄せ時】不能 【閉眼】閉眼不能 【口角の運動】ほとんど動かず 【共同運動】- 【拘縮】- 【痙攣】- 【全体的印象】わずかに動きを認めるのみ |
Ⅵ完全麻痺 | 【安静時】非対称性 緊張なし 【額しわ寄せ時】動かず 【閉眼】動かず 【口角の運動】動かず 【共同運動】- 【拘縮】- 【痙攣】- 【全体的印象】緊張の間然喪失 |
西洋医学的な検査方法は下記のとおりです。
【神経生理学的検査方法】
あぶみ骨筋反射、誘発筋電図、味覚検査、流涙検査
【画像検査】
Bell麻痺やHunt症候群では、必ずしも単純MRI検査は必要はないが、腫瘍性の病変を否定するために画像検査をすることがある。
【ウィルス検査】
補体結合反応(CF法)、赤血球凝集抑制法(HI法)、控訴免疫測定法(ELISA法)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)などによりウィルスのDNA検査が行われる。
西洋医学的な治療方法は下記のとおりです。
【Bell(ベル)麻痺】
抗ウィルス薬、ステロイドホルモン薬を併用。麻痺の状態により量を調整する。症状によって入院治療をすることもある。3か月以内に治癒に至る割合は8割程度で、3ヶ月以上経過する割合は1割強となっている。
【Hunt(ハント)症候群】
水痘帯状疱疹ウィルスであるので、抗ウィルス薬が中心。ステロイドホルモン剤も使用。高度麻痺に対しては、入院にて治療をする。3か月以内に治癒に至る割合は6割程度で、3ヶ月以上経過する割合は2割強となっている。予後が不良のケースが多い。
東洋医学的な”顔面神経麻痺”とは・・・
東洋医学では、顔面神経麻痺を直接表現する傷病名はありませんが、顔面神経麻痺の特徴的な症状を捉えて”口角流延”や”口眼歪斜”と言います。つまり、麻痺側の口角から水が漏れるという症状や口や目元が下垂するという症状を言います。もちろん、口角流延や口眼歪斜は、顔面神経麻痺以外の病気で引き起こされることもあるので、しっかりと検査をする必要があります。
では、東洋医学ではどのように分類するのでしょう。東洋医学では、臓腑に気が宿るという考えたがありますので、それぞれの臓腑の気の異常によって、さまざまな症状を引き起こします。また、気・血・水そのものの代謝異常によって引き起こされる場合がありますので、その組み合わせによって分類は膨大な数にのぼります。ここでは、その中でも最も多い症状について見ていきます。
①風中経絡タイプ
【原因】
身体の経絡が様々な要因によって空虚になり、外風がその空虚になった経絡、特に手足の陽明経に愛影響を及ぼすと、経絡を流れる気が滞り、経絡の機能が損なわれると麻痺症状が起こり、口や眼が閉じられなくなります。
【症状】
顔面も麻木、口眼歪斜、瞼が閉じられない、涎がいつまでも流れる
②風痰上湧タイプ
【原因】
腎の陰気が不足すると肝の陽気が亢進、また、肥満体質で体内に痰湿が盛んになるとそれが鬱滞し熱を帯びてきます。加えて、精神的に不安定な状態、悩みや怒りやすくなったり、酒などの嗜好品を多く摂取するなどが原因で、さらに肝の陽気が膨張し、それによって体内の気が上昇し乱れると麻痺症状が起こり、口眼歪斜や眼が閉じられない、涎を流すようになります。
【症状】
口眼歪斜、舌が歪曲し発語に障害、流延、顔面半面の麻木不随
顔面神経麻痺のタイプ別治療方法
【基本治療】
顔面神経麻痺の鍼灸治療は、基本的に麻痺の出ている部位に直接鍼治療をします。
発症から2週間以内の場合は、顔面神経を目標に聴会・下関・翳風に置鍼をします。その際に1Hz程度の低頻度の鍼通電刺激を行い、表情筋の筋収縮の有無を確認します。
発症から2週間以上経過した後も、少ない刺激量で筋収縮が確認できる場合は、完全回復もしくは回復が期待できるので、神経を目標とした鍼通電療法をします。ただ、2週間以内に急速に麻痺が進行し、鍼通電刺激でも筋収縮が減弱もしくは確認不能の場合は神経の軸索が変性していると推測されるので、後遺症が残る可能性があります。いずれにしも、鍼通電療法は、前頭筋、眼輪筋「・鼻筋・頬骨筋・口輪筋・口角下制筋・広頚筋に置鍼します。その際に、50~100Hz程度の高頻度の鍼通電刺激を行います。
基本治療以外は、タイプ別に下記のような治療をしていきます。
風中経絡タイプ | 【去風通絡法】 特に陽明経の経絡の気の流れを良くする治療が中心になります。それぞれの経穴に鍼と温灸によって刺激を与え、体内の気の流れを良くしていきます。治療部位は、麻痺部、後頭部、前腕の前面になります。 |
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風痰上湧タイプ | 【去風滌痰法】 肝気の流れを良くする治療が中心になります。肝に関係する経穴(ツボ)に鍼と温灸によって刺激を与え、肝気の流れをスムーズにします。そのことによって、上昇している乱れた気を整えていきます。飲食不節がある場合は脾胃を整えていき、痰湿を取り除いていきます治療部位は、麻痺部、後頭部、腹部、下肢前面、前腕部になります。 |
顔面神経麻痺は、鍼治療以外にも日常的なリハビリテーションが重要になります。①温熱療法(蒸しタオルによるホットパック)②マッサージ(各表情筋をゆっくりと伸張させもみほぐす)③表情筋の分離運動(眼を見開きながら口笛を吹く動作など)
治療期間と周期
発症後、なるべく早い段階から治療を開始すると予後が良くなります。発症直後は週3回を基本として、顔面神経に刺激を与える治療を中心に行います。その後、麻痺の状態によって、表情筋に高頻度の鍼通電療法を、週2回程度行っていきます。体調に合わせて治療期間を設定していきます。
鍼治療を行う際は、必ず精密検査をした上で、末梢性の顔面神経麻痺であることを確認してください。中枢性やその他の疾患が原因である場合は、病院での治療を優先し、主治医と相談の上鍼治療を行ってください。
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